気候変動への対応(TCFD)

TCFD提言に沿った情報開示

基本的な考え方
 気候変動は世界共通の喫緊の課題であり、異常気象の増加、生態系への悪影響、水資源の減少等のさまざまな脅威をもたらします。日油グループでは、レスポンシブル・ケア活動の目標の一つに温室効果ガスの排出量削減を掲げ、さまざまな省エネルギー施策に取り組んできました。2020年10月の政府による2050年カーボンニュートラル宣言および2021年4月に表明された新たな温室効果ガス削減目標を受け、日油グループにおいても新たな目標を設定して温室効果ガス排出量の削減に取り組むことにしました。日油グループは、気候変動がもたらすリスク・機会を認識し、対策を進めることで、「N O FVISION 2030」に掲げる豊かで持続可能な社会の実現に向け、化学の力で新たな価値を協創していきます。

TCFDの提言への賛同
 日油グループは、2022年4月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しました。TCFD提言を踏まえて、気候関連のリスク低減と成長機会の創出に努めるとともに、情報開示の拡充に取り組んでいきます。

ガバナンス

 日油グループでは、取締役兼執行役員と役付執行役員で構成する政策会議、ならびに社長を委員長とするCSR委員会における協議を経て、サステナビリティに関するマテリアリティ(重要課題)を特定し、取締役会で承認しています。それぞれのマテリアリティは、KPIと目標値を設定して主管組織・担当部門が活動を推進し、進捗状況・結果をCSR委員会へ報告しています。CSR委員会では、全ての取締役が参加してマテリアリティのレビューを行い、重要課題の項目、KPI、目標値、対応方針を見直すことで、活動レベルの継続的な向上を図っています。
 気候変動への対応は、マテリアリティの一つとして特定し、中長期目標を含む重要事項はCSR委員会で協議しています。リスクについては、リスク管理委員会が網羅的なアセスメントを実施し、レスポンシブル・ケア委員会がリスク対策・温室効果ガス排出量の削減施策を主管してモニタリング・進捗管理しています。また、機会については、経営幹部会議、重点事業検討会などで議論し、重要事項については、経営審議会で審議しています。これらの委員会・会議の結果は、年2回以上、取締役会に報告され、監督を受ける仕組みを構築しています。

戦略

 日油グループでは、1.5℃・2℃シナリオ/4℃シナリオに基づき、気候変動がもたらすリスクや機会を分析しています。 主要なリスクや機会は、以下の通りです。

移行リスク(1.5℃、2℃シナリオ)
主要なリスク・機会 概要 影響度 対策
国内外の規制強化 炭素税等の導入による、財務的な負担の増 ・温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みの推進
原材料の高騰 石油等の供給量減少やバイオ燃料の需要増等による、石化系や植物系・動物系油脂等の原材料価格の高騰 ・複数購買や長期契約による原料安定確保
・石化系の原料から植物系の原料への切り替え
・バイオマス化学品活用
・カーボンリサイクル
  (溶剤のリサイクル等)
エネルギー・輸送コストの高騰 原油・天然ガスの価格高騰 ・省エネ機器導入、プロセス見直し
・共同配送、モーダルシフトの推進
脱炭素市場への転換による販売先環境変化 ガソリン車やディーゼル車のシェア低下にともなう売り上げの減少 ・電気自動車や再生可能エネルギー等の脱炭素市場への対応強化
評価・評判の悪化 気候変動対策の遅れによる、ESG投資における投資家からの評価や、顧客からの評判の悪化 ・温室効果ガスの排出量削減に向けた対策の積極的な推進と情報発信
※ 1.5℃・2℃シナリオ:産業革命以前と比較して、気温上昇を1.5℃や2℃に抑えるために、必要な対策が実施されると想定した脱炭素シナリオ(国際エネルギー機関(IEA)「2050年ゼロエミッションシナリオ(NZE2050)」、「公表政策シナリオ(STEPS)」等)

物理リスク(4℃シナリオ)
主要なリスク・機会 概要 影響度 対策
豪雨・洪水・台風・高潮等の自然災害 気候変動にともなう集中豪雨の増加や海面上昇、台風の強大化による高潮によって、生産拠点やサプライチェーンの事業中断リスクの増大 ・雨水対策や建物、設備の防災対策
・事業継続計画(BCP)の見直しと教育・訓練、監査の実施
・原材料の複数購買
高潮・熱波 気温上昇による倉庫の冷蔵・冷房保管等への影響 ・設備投資計画の継続的な見直し
※ 4℃シナリオ:産業革命以前と比較して、21世紀末に世界の平均気温が4℃上昇する、気候変動が進行した成り行きシナリオ(国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「RCP8.5」等)

機会(1.5℃、2℃シナリオ)
主要なリスク・機会 概要 影響度 対策
気候変動解決に貢献する製品へのニーズ拡大 気候変動の緩和や適応に貢献する製品へのニーズ拡大 ・気候変動の緩和や適応に貢献する製品の開発・提供
評価・評判の向上 積極的な気候変動対策による、ESG投資における投資家からの評価や、顧客からの評判の向上 ・気候変動解決に貢献する製品の開発・提供や、温室効果ガス削減の推進等の情報発信
※ 影響度:
「リスク」影響金額……10億円超(大)、10億円以下・1億円超(中)、1億円以下(小)
「機会」市場規模……300億円/年超(大)、300億円以下・30億円超(中)、30億円以下(小)

財務へのインパクト(抜粋)
 日油グループでは、製造工程を中心に蒸気、電気などのエネルギーを消費します。気候変動がもたらす移行リスクとして、炭素税の価格上昇と再エネ賦課金※の単価上昇による財務負担の増加が想定され、影響金額は合わせて33億円程度と試算しています。また、4℃の物理リスクとして500年から数千年に一度の台風により堤防が破壊し、臨海部の工場が浸水した場合の設備被害は77億円と想定し、事業継続計画を整備しています。
※再生可能エネルギー発電促進賦課金

財務へのインパクト

気候変動の進行を「緩和」する温室効果ガス削減に貢献する製品

      電気自動車

【電気自動車】
  機能材料事業、防錆事業
  市場規模:大

 EVはガソリン車と比較して電子部品(受動部品)、電動ユニット、部品を固定するねじの増加や、液晶パネルの増加・大型化により、車載電子部品用添加剤、電動ユニット用潤滑剤、防錆剤、液晶カラーフィルター用オーバーコート材の需要増が見込まれます。また、LEDはEVの省電力化に有効なため、LEDヘッドランプ用防曇剤の需要増が見込まれます。さらに、EVは車両の静粛性が向上するため、内装部品の樹脂同士の擦れによるノイズを防止する異音防止剤などの樹脂用添加剤の需要増が見込まれます。

   風力発電/太陽光発電

【風力発電/太陽光発電】
  機能材料事業、防錆事業
  市場規模:中

 風力発電のブレードに使用されるボルト用防錆剤、ギアの潤滑に必要な生分解性潤滑油の需要増が見込まれます。また、風力発電や太陽光発電から送電するための超高圧・高圧電線の被覆材として用いられる架橋ポリエチレン用有機過酸化物の需要増が見込まれます。

        代替肉

【代替肉】
  機能食品事業
  市場規模:小

 環境負荷を低減する植物由来代替肉の旨味、食感改善に寄与する代替肉用油脂の需要増加が見込まれます。

        樹脂サッシ

【樹脂サッシ】
  機能材料事業
  市場規模:小

 塩化ビニル樹脂は断熱性の高い樹脂サッシに使用されるため、省エネ住宅の普及にともない、有機過酸化物の需要増が見込まれます。

気候変動の影響を低減し「適応」に貢献する製品

    エアコン/冷蔵庫

【エアコン/冷蔵庫】
  機能材料事業
  市場規模:大

 気温上昇にともない、エアコンや冷蔵庫の必要性が途上国を含めグローバルに高まっていて、冷凍機の潤滑油である冷凍機油やエアコンパテ用ポリブテンの需要増が見込まれます。日油が販売する冷凍機用潤滑基材は代替フロン冷媒用であり、気候変動への適応に貢献します。

    診断薬/医薬品原料

【診断薬/医薬品原料】
  ライフサイエンス事業、機能材料事業
  市場規模:大

 気候変動の影響で、熱帯性感染症等の病気・疾患の拡大が懸念されるため、感染症対策の消毒液、診断薬用の添加剤の他、病気・疾患等に対する医薬品の増加による医薬品原料の需要増が見込まれます。

   環境情報/防災・減災製品

【環境情報/防災・減災製品】
  化薬事業
  市場規模:小

 気候変動の進行にともない、海水温をはじめ、地球全域を調査する必要性が高まる可能性があり、調査のための海洋機器やロケット打ち上げ回数等が増加する可能性があります。また、特定温度に達すると色が変わる温度管理用示温材(ラベルやシール等)の用途が拡大する可能性があります。さらに、高潮等のリスク増加にともない、産業用爆薬を用いて、山間部から岩石・土砂を調達する堤防工事が増加する可能性があります。
  

リスクマネジメント

 日油グループでは、リスク管理委員会で、事業を取り巻くさまざまな経営リスクを網羅的に洗い出し、各リスク項目の影響度・発生可能性について全社的リスクアセスメントを実施し、優先的に対応すべきリスクを特定しています。TCFD提言に基づく情報開示に当たっては、リスク管理委員会とレスポンシブル・ケア委員会から選抜されたメンバーで構成されるワーキンググループを中心に、事業を取り巻く様々な経営リスクのうち、気候変動が影響を及ぼすリスクを特定し、将来において、どの程度、影響度が変化するかについて、リスクアセスメントを実施しています。分析の結果については、CSR委員会に報告し、気候変動リスクの対策に関わる重要な意思決定などを行っています。

指標・目標

温室効果ガス排出量削減に向けたロードマップ
 日油グループでは、温室効果ガスの排出量削減に向けたロードマップを作成し、事業活動における気候変動の緩和に努めています。事業拡大による排出量の増加の可能性を考慮し、新たにフェーズ2として再生可能エネルギーの導入、フェーズ3として新プロセス、新技術の検討に着手することで2050年のカーボンニュートラルを目指すとともに、移行リスクに伴う財務負担の低減を図ります。

    自社事業活動で発生する温室効果ガス(CO2換算)削減[Scope1、2]        (→図を拡大する)
     CO2排出量実績推移
     (基準年2013年度)

温室効果ガス排出量
 2020年10月の政府による2050年カーボンニュートラル宣言、そして、2021年4月に表明された新たな温室効果ガス削減目標を受け、日油グループも新たな目標として、「2030年度までにCO2排出量を2013年度比40%削減」を掲げました。すでに2 0 2 2 年度にはC O 2 排出量を約2 0 % 削減(2013年度比)し、温室効果ガス排出量の削減と、2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています。

|スコープ1、2 CO2排出量(2022年度)                 (千トン・CO2)
Scope1 Scope2 合計(Scope1+2)
日油 53.3 78.2 131.5
国内グループ 60.1 83.5 143.6
日油グループ 71.9 103.3 175.3

|スコープ3 CO2排出量(2022年度)国内グループ            (千トン・CO2)
カテゴリー 2022年度 算出方法
購入した製品・サービス 278.3 購入原材料、消耗品、補修材料の品目ごとの物量や金額にガイドラインによる部門別排出原単位を乗じて算出
資本財 22.4 固定資産の取得金額に、ガイドラインによる排出原単位を乗じて算出
Scope1、2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動 36.3 電力使用量と蒸気使用量に、ガイドラインによる排出原単位を乗じて算出
輸送、配送(上流) 25.0 購入原材料の輸送トンキロデータおよび自社が荷主の納入製品の輸送トンキロから算出
事業から出る廃棄物 8.2 各生産箇所から排出される廃棄物の種類別の重量に、ガイドライン等による排出原単位を乗じて算出
出張 0.5 従業員数に、ガイドライン等による排出原単位を乗じて算出
雇用者の通勤 1.6 通勤手当費用額に、ガイドライン等による排出原単位を乗じて算出
リリース資産(上流)賃借 - 非該当
輸送、配送(下流) - 非該当
販売した製品の加工 20.6 食用加工油脂、産業用爆薬の販売量にガイドライン等による排出原単位を乗じて算出
販売した製品の使用 未計算 日油製品は中間品原材料が主流であり、納入後のユーザーでの加工方法が多岐にわたり、かつ非開示であるため計算不可
販売した製品の廃棄 0.7 出荷製品の梱包材について、種類別の重量にガイドラインによる排出原単位を乗じて算出
リソース資産(上流) - 非該当
フランチャイズ - 非該当
投資 - 非該当
合計 393.4

温室効果ガス削減の取り組み状況

エネルギー使用量とCO2排出量
 2022年度のエネルギー使用量は、日油グループでは前年度比7.8%減少、日油単独で前年度比7.0%減少しました。エネルギー使用にともなうCO2排出量は、日油グループでは149千トンと前年に比べて13.5%減少、日油単独では111千トンと15.9%減少となりました。エネルギー原単位は、日油グループは13.8GJ/トンと前年に比べて2.0%増加、日油単独で14.5GJ/トンと4.6%の増加となりました。引き続き、各種省エネルギー施策を実施し、さらなる効果創出に取り組みます。

※1 電力使用量をCO2排出量に換算する場合の係数は、各電力供給会社が公表する各年度の排出係数をそれぞれ用いました。
※2 エネルギー評価で電力使用量を熱量に換算する場合の係数は、9.76kJ/kWhを用いました。

エネルギー使用以外のCO2排出量
 日油の愛知事業所では、温暖化係数の高いPFC(パーフルオロカーボン)を、有機過酸化物の希釈剤として用いて特殊用途製品を製造しています。
 これまでに数回の設備改善を行い、PFC排出量の削減に努めてきました。その結果、1995年(PFC類の基準年)に対し大幅に削減してきました。
 2022年度においては、2021年度比144%の増加となりましたが、回収設備の安定稼動や希釈剤変更に向けた取り組みなどを継続し、排出量の削減に努めます。

省エネルギーへの取り組み
 2022年度の日油グループの原油換算エネルギー使用量は、2021年度比8.0%減の80,226klとなり、売上高原油換算エネルギー原単位は、2021年度比18.5%減の0.37kl/百万円となりました。工程改善やスチームトラップの交換による蒸気使用量削減などの省エネルギー活動に取り組んできました。加えて、売上高の伸長が、売上高原油換算エネルギー原単位の改善に影響していると評価しています。

物流のCO2排出量削減の取り組み
 日油では、2006年度から統合配送システムを稼動させ、物流の効率化を図っています。加えて、モーダルシフト※や共同配送の推進にも取り組んでいます。
 モーダルシフトは、トラック輸送から鉄道便へのシフトを進めた結果、全輸送量に占める鉄道及び船舶輸送の比率が19.5%となりました。
 物流におけるCO2排出量原単位は、統合配送システム実施初年度(2006年度)を100とすると、2022年度は52.1となりました。

 輸送のCO2排出量原単位=Σ(輸送手段ごとのCO2排出量)/売上高

※輸送手段を鉄道や船などの大量輸送手段に変更することで、輸送の効率化を図り、併せて省エネルギー、環境負荷の低減を図ること。

再生可能エネルギーの取り組み(国内)
 日油グループの再生可能エネルギーの取り組みは、2018年に川崎事業所、2020年11月に日油技研工業㈱に太陽光発電設備を導入し、生産活動に使用する電力の一部を再生可能エネルギーで賄い、低炭素社会に向けた取り組みを進めています。
 2022年度の発電量は川崎事業所が15MWh/年、日油技研工業㈱が19MWh/年です。

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