理念・価値観
トップメッセージ
グローバルな事業環境が激変するなか、日油グループは2025中期経営計画で過去最高業績を達成し、持続的成長への確かな一歩を踏み出しました。さらなる成長を見据え、新たに始動した2028中期経営計画「事業領域拡大ステージ」は、ROE15%以上を掲げる「NOF VISION 2030」の総仕上げとなるフェーズです。複雑化する社会課題を成長の機会に変えるべく、攻めの投資を推進します。この挑戦を支えるのは、従業員一人ひとりのマインドセットと、「挑戦」「公正」「調和」の3つの価値観をもとにした強靱な企業風土です。この確固たる土台のもと、経済価値と社会価値を両立する製品を創出し、ステークホルダーの皆さまとともに、未来に向けてまい進いたします。
代表取締役社長 沢村 孝司
顧客起点の研究開発と海外での経験
日油(当時の社名は日本油脂)に入社したのは1988年のことです。大学時代に高分子化学の研究をしていた私は、油化事業部に配属されました。任された仕事は、プラスチックに機能性を付与する高分子添加剤の開発です。日油グループは当時からお客さまとのコミュニケーションを重視しており、私自身も研究職でありながら、営業メンバーに同行する機会が多くありました。お客さまの要望を細かくヒアリングしながら製品の改良を重ね、課題解決に貢献するという一連のプロセスを通じて、研究開発は顧客ニーズに基づいて行われるべきだと強く実感したことを覚えています。
その後、2003年から4年半にわたるベルギーでの営業経験を経て、2011年にDDS事業部への異動を命じられました。発足から10年程度であった同事業部はまだ規模が小さく、市場の開拓とビジネスの成功に向けて必死に動いていた時期でした。そこでの私のミッションは、欧州での営業活動です。従業員数が数名程度のスタートアップ企業を中心に取引先を開拓し、連携しながら素材開発を進めていきました。異国の文化や商習慣の違い、さらに厳格化していく品質管理基準にも対応しながら、お客さまの要望に適した製品をつくり上げるのは容易なことではありませんでした。それでも丁寧なコミュニケーションを尽くし、品質管理を大切にしながら粘り強く成果を積み上げた結果、小さなスタートアップだった取引先企業のいくつかは、今では大規模な製薬会社へと成長しています。そして当社自身も、DDS素材のトップメーカーとして確固たる地位を築くことに成功したのです。
こうした経験から、私は「ソリューションビジネスの深化」と「グローバル展開の加速」という2つのテーマを成長戦略の柱と位置付けました。ソリューションビジネス、つまり顧客課題の解決に資する製品を提供するという意識は、会社としては以前から重視していたものの、大々的に掲げてはいませんでした。世の中が急速に変化し、社会課題の複雑化によってお客さまの製品開発も高度化しています。こうした状況において、長年の歴史を通して進化してきた独自技術をソリューションとして届けることは、私たち日油グループの重要な使命です。そして、私が身をもって経験してきた海外市場への挑戦こそが、持続的な成長の鍵となります。昨今の国内外の状況を踏まえると、現時点で全体の30%程度となっている海外売上高比率を、今後さらに引き上げていく必要があると考えています。近年では、特にインドや東南アジアといった地域において市場が急速に拡大しています。これらの国々において、現地ニーズに即した生産・販売体制を構築することは、「NOF VISION 2030」の目標達成に欠かせない戦略です。
「実践と躍進」を遂げた2025中計
「NOF VISION 2030」は、日油グループが持続的な成長を遂げるグローバルカンパニーとなるための長期ビジョンです。「ライフ・ヘルスケア」「環境・エネルギー」「電子・情報」を目指す3分野と定め、化学の力で幅広い付加価値を提供することを掲げています。
ビジョン実現に向けた3つのステージ(詳細はこちら)のうち、2段階目にあたる2025中計では、市場の変化に対応しながら必要な施策を実行し、目標を達成できたと評価しています。この3年間においては基本方針として定めた「実践と躍進」に向け、設備投資、研究開発投資、人的資本投資の3つのテーマで合計700億円規模の戦略投資枠を設定していました。結果的には、事業環境の変化によって一部案件の計画見直しや見送りを行った一方で、当初計画にはなかった化薬事業への設備投資を実施し、StageⅢへの布石を打つことができました。未実行となった案件は2028中計にて継続検討します。
また、2025年度における売上高と営業利益は、いずれも過去最高を更新しています。一方で3年間のセグメント別業績では、事業環境の影響から進捗の差が生じました。医薬・医療・健康セグメントは、米国市場における開発遅延などにより計画値が未達となっています。しかし、中長期的に需要が増加するマーケットであることに変わりはなく、引き続き創薬サポートビジネスを推進していきます。機能化学品セグメントは、界面活性剤や特殊防錆処理剤などの堅調な需要に支えられ、営業利益は計画値を達成しました。化薬セグメントは、計画時に想定していなかった早期装備化に伴う関連設備の投資および投資資金の回収により、計画値を大幅に上回っています。
2025中計で過去最高益を更新し、次のステージへの布石を打った私たちは、満を持して「NOF VISION 2030」の達成に向けた「総仕上げ」のフェーズへと移行します。それが、新たに始動した2028中計です。
新領域を探求し、ニッチ分野で世界へ
2028中計は、「NOF VISION 2030」のこれまでのステージで積み上げてきた施策を踏まえ、さらなる成長を目指す「事業領域拡大ステージ」です。近年、ニッチな市場で優位性を獲得している当社の事業運営に対し、投資家をはじめとするステークホルダーからの期待がますます高まっていると感じます。その期待に応えて企業価値を拡大するため、目指す3分野で新たなソリューションを提供するべく、外部連携や研究開発を加速する投資計画を打ち出しました。 足元の事業環境に目を向けると、世界的な気候変動といった問題を起点として社会課題が複雑化しています。しかしこうした状況は、私たちにとってむしろ最大の機会といえます。なぜなら日油グループは、これまでも「バイオから宇宙まで」の幅広い領域でお客さまの複雑な課題に寄り添い、新たな付加価値を創出・提供してきた化学メーカーだからです。たとえば、高度医療へのニーズに応えるために生まれた日油のDDS関連技術は今や、次世代医療に不可欠なものとなっています。私は2025中計期間において、こうしたソリューションビジネスの重要性をグループ内で改めて認識・定着させるべく、積極的に発信してきました。そして今後はソリューション開発をさらに加速させ、既存領域のさらなる深耕と、新たな領域への進出を推進しなければならないと考えています。
一方で、地政学的な緊張やそれに伴う原材料価格の高騰、サプライチェーンの分断といったリスクも高まっています。グローバル展開を拡大していくなかで、調達先の多様化や地産地消の推進といった対応も急務です。StageⅠ・Ⅱで培った経営基盤を活かし、リスク管理を徹底しながらサプライチェーンの強靱化を進めます。
また、技術革新や環境規制の急激な変化も注視しています。特にIT領域においてはAIの台頭により、進化のスピードがますます加速しています。電子・情報分野を目指す3分野の一つと定める当社にとって、この変化にスピード感を持って対応し、新技術を提供することは重要な課題です。2025中計期間中に新設したパイロットプラントを有効活用し、迅速なソリューション提供を図っていきます。
このような事業活動を世界に向けて展開することで、私は日油グループを高機能材料分野のトップ企業へ成長させたいと考えています。一方で、目まぐるしく変化する各国の環境規制などに対し、先手を打って技術開発を行うことが難しいのも事実です。そうしたなかで自前主義(クローズドな研究開発)にこだわっていては、市場のスピードに取り残されてしまうでしょう。そのため今後は、オープンイノベーションをはじめとする外部連携に向けた投資を加速します。目指す3分野において新技術を獲得し、新たな事業領域への拡大につなげます。
この実現に向けて、研究開発においては、研究本部と事業部門との連携をより一層強化する必要があります。これまでは研究本部が中心となって新技術の開発を担い、事業部門が応用する仕組みとなっていました。今後はこの体制を、開発の初期段階から事業部門が深く入り込む形に整えていきます。この戦略は、ターゲット市場や販売チャネルをより細かく見越した上での技術開発を可能にするものです。2026年4月に研究本部内に設立したヘルスサイエンス研究所、マテリアルサイエンス研究所は、まさにそうした連携の体制が整っています。これにより、目指す3分野における中長期を見据えた新規事業創出を、さらに確度の高いものにしていきます。
また、中長期的な企業価値向上のためには、資本効率の向上も意識しなければなりません。資本市場からは、投下した資本に対してどれだけの価値を生み出しているかという「資本効率」がこれまで以上に強く求められています。財務健全性を維持しつつ、資本効率の向上を目指していくことは重要な責務です。具体的な施策としては、2,000億円規模の戦略投資枠を設けて成長投資を積極的に進めるとともに、総還元性向を70%以上、配当性向は40%程度を目安に積極的な株主還元を進める計画です。
2028中計では、「成長ドライバー創出に向けた機動的なリソース配分」と「キャピタル・アロケーションの最適化による株主価値の最大化」という2つの方針を掲げました。最大の課題は、「中長期的な先行投資」と「短期的な資本効率の向上」という、時間軸の異なる要素の最適なバランスを取ることです。新規事業は収益化までに時間を要するため、一時的に資本効率を押し下げる要因となりますが、より丁寧な説明によって、株主・投資家の皆さまのご理解をいただけるよう、努めてまいります。
3つの価値観が成長への羅針盤
攻めの投資と確固たる戦略を実行に移し、目まぐるしい環境変化を勝ち抜いていく。その戦略を推進する土台となるのは、従業員一人ひとりのマインドセットと、それを支える強靱な企業風土です。
「挑戦」「公正」「調和」という3つの価値観は、2025中計のはじめに策定したもので、経営理念を実現するためのバリューと位置付けています。私はこの価値観を、不透明な市場環境においてさまざまな判断を行う際の羅針盤であり、日油グループの強みである「ニッチ市場での優位性」と「技術の融合」を生み出す源泉となるものと考えています。これらをグループの全従業員に浸透させることで、新たな価値を創造する企業風土の構築、不正やハラスメントの撲滅、そしてゼロ災の達成が可能となるはずです。
一つ目に掲げる「挑戦」は、新たな領域を切り拓くための価値観です。私自身、初めて海外赴任を命じられたときには、不安や戸惑いから一度は断ろうかとさえ思いました。ですが、思い切って挑戦したからこそ、DDS事業の成果に貢献することができたのです。そして日油グループが高付加価値製品を生み出し続けることができるのも、常に新たな分野に挑み続ける姿勢があるからです。この思いから、従業員には常日頃から「海外赴任など新しい機会があれば、ぜひ『挑戦』してほしい」と伝えています。
二つ目の「公正」は、ステークホルダーからの確固たる信頼を築く風土を表しています。グローバル市場において「日油グループなら安心して任せられる」という信頼をこれからも保ち、強固なものにしていくためには、お客さまや社会に対して誠実に向き合い続ける姿勢が重要です。
三つ目の「調和」には、サステナビリティや多様性への思いが込められています。化学メーカーにとって、事業活動と地球環境との調和は不可欠です。経済価値と社会価値を同時に創出し、ステークホルダーの皆さまとともに持続可能な未来をつくり上げる。この風土こそが、次世代における競争優位性の礎となると確信しています。また、グローバル展開を強化するという観点でも、多様な文化や人々との調和が今後より一層、重要性を増していくと考えています。
これらの価値観の浸透に向けて、私自身も社長訪問やタウンホールミーティングなどを通じて、従業員とのコミュニケーションに努めています。タウンホールミーティングは、2025年度に初めて開始した取り組みです。私を含む3名が工場や研究所を訪れ、各拠点で10〜30名ほどの従業員と意見交換を行っています。手探り状態でのスタートでしたが、結果としては好評だったと手応えを感じています。あらかじめ事務局にアンケートやヒアリングを実施してもらい、それに基づいて進行を取り仕切ったことで、従業員の自由な発言を促すことに成功しました。ミーティングの終わりには、時間が足りなくなる回もあったほどです。また、同行メンバーで実施した振り返りにおいても、議論の内容や3つの価値観の浸透についてさまざまな意見が挙がりました。今後もこうした取り組みを継続し、価値観の浸透状況を把握しながら、組織風土の改善に向けて機動的な対応策を講じます。
タウンホールミーティングの様子
サステナビリティへの貢献
今、化学業界には「安全・安心を確保しつつ、持続可能な価値を創造する責任」がこれまで以上に厳しく問われています。原料の取り扱いやプロセス管理を事業の基礎とする当社グループは、製品のライフサイクル全体を通じて人と環境への配慮を徹底し、社会からの要求に応えなければなりません。
人を守る取り組みとして、職場の不安全状態・不安全行動の撲滅、健康管理と技能継承を重要視しています。特に、長年培ってきた高度な技術や安全管理に関するノウハウを次世代へ確実に伝達していくことは、当社グループの持続的な成長を支える人的資本経営の核心です。その施策として、作業環境のモニタリングや、リスク低減のための工程設計、点検・保守の計画化に加え、現場での徹底した教育体制の構築を進めています。私自身も生産拠点を毎年訪問し、現場で実施された災害防止対策の進捗と効果を直接点検しています。現場で意見交換を重ねながら施策の実効性を確認し、必要な改善を経営に反映させるためです。今後は人材の多様化とともに、こうしたノウハウ伝承がさらに重要性を増していきます。マニュアルの整備や評価を強化し、安全意識の確実な浸透につなげます。
環境への配慮もサステナビリティに欠かせないテーマです。温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)や廃棄物の排出削減、省エネルギーの取り組みなどが各拠点において適切に運用されているかを確認し、現場発の改善提案を積極的に取り入れています。
こうした活動の効果を定量的に評価・検証するため、「労働安全衛生の推進」「気候変動への対応」「ケミカルセーフティ」「CSR調達の推進」をマテリアリティとして、KPI(指標)の見直しを毎年行っています。
特に気候変動については、SSBJにおいて開示項目の範囲や深度、検証プロセスの基準が示されています。そのため、リスクと機会を明確に整理し、定量的に開示することが欠かせません。KPI設計の段階から社内データの取得・検証体制を組み込み、一貫したデータ整備と第三者による検証を視野に入れた対応を進めています。
また、当社は経済価値と社会価値を両立する製品開発を重視しています。気候変動をはじめとするさまざまな社会課題の解決に、技術で貢献する。これこそが今、化学業界全体に求められている大切な役割です。私たちは、地域社会・地球環境の改善やQOL向上に貢献する「サステナビリティ貢献製品」を提供し、お客さまの成長をサポートしながら、持続的な企業価値向上を目指します。
「バイオから宇宙まで」の追求
大学時代、初めて日油を知ったとき、経営理念にある「バイオから宇宙まで」という言葉の大胆さに強く惹かれました。そしてCEOとなった今、この経営理念を未来に向けて揺るぎないものにするために「ソリューションビジネスの深化」と「グローバル展開の加速」の2つの成長戦略を推進することが、私自身の果たすべき役割と考えています。
「ソリューションビジネスの深化」においては、企画・開発・営業・サービスが一体となって価値を創出することが重要です。お客さまの事業成果に貢献する提案力・実行力を高めることで、より付加価値の高いビジネスモデルへの転換を進めます。
また「グローバル展開の加速」は、持続的成長を支える成長機会であると認識しています。各国・各地域のニーズや規制、文化の違いを的確に把握しながら、現地パートナーやグループ各社との連携を強化した事業展開を進めていきます。
これらの戦略は、「NOF VISION 2030」の最重要指標であるROE15%以上の実現に直結するものです。資本効率を向上し、より多くの価値を社会やステークホルダーに還元することは、企業としての根源的な使命であると認識しています。
強調しておきたいのは、この2028中計が、単なる数年間の目標達成にとどまる計画ではないということです。日油グループが持続的な成長を遂げ、社会に価値を提供し続けるために、2030年度、そしてその先を見据えた大きな布石を打つという強い意志を込めました。当社グループの挑戦に、ぜひご期待ください。
